社内恋愛のススメ
「これって、婚約指輪………とかじゃないよね?」
急過ぎる展開に、まだ心が追い付いてくれない。
それを聞くことで、長友くんを傷付けてしまうかもしれないのに。
長友くんの心に傷を刻み込んでしまうかもしれないのに、聞いてしまうんだ。
嬉しいクセに、戸惑ってる。
いや、嬉しいからこそ、戸惑ってるのかもしれない。
「ははっ、俺、そこまでせっかちじゃない。………その前に、まだプロポーズもしてないしな。」
あぁ、そうだ。
結婚したいとは言ったけど、プロポーズをされた訳じゃない。
結婚したいと考えているのは知っているけれど、正式に口に出して求められた訳ではないのだ。
早とちりだ。
私が早まって、そこまで考えてしまっていただけのこと。
長友くんが笑う。
ちょっとだけ苦い微笑みを混ぜて、私の前で笑う。
「これは、有沢が俺の彼女っていう印。証明みたいなもんだよ。」
「か、のじょ………。」
そっか。
私、今日から長友くんの彼女。
長友くんの恋人なんだ。
ただの同僚じゃない。
隣に座っているだけの同期じゃない。
長友くんの彼女は、私なんだ。
「結婚とか、今はそこまで考えなくていいから。有沢、お前、結婚とか全然考えたことないだろ?」
「………うん。」
「有沢のこと、焦らせるつもり………ないからさ。」
長友くんは、私のことをよく知っている。
私が、結婚を考えられないでいたこと。
具体的に、誰かと結婚を考えたことがないということを。
恋愛はしていても、結婚までは考えられない。
周りに急かされていても、そこまで考えられないでいたことをちゃんと分かっている。
だから、そう言ってくれるんだ。
人に気を遣うタイプに見えないのに。
我が道を突き進むタイプのクセに。
肝心な時には、こうして他の誰よりも、人の心を重んじてくれる。
自分の意見よりも、他人の心を大切にしてくれる。
そんな長友くんのことが、私は好きだ。
好きなんだ。