社内恋愛のススメ
「しっ!静かにして………。」
あの人の声。
新郎だったはずの彼の声。
視界を奪われていても、分かる。
見なくても分かってしまう。
だって、ずっと憧れていた人の声だから。
入社してから、ずっと追いかけていた人の声だから。
(か、上条………さ………ん?)
どうして。
どうして、上条さんがここにいるの?
文香さんと一緒にいるべきはずの人が、どうしてこんな所にいるの?
鈍い衝撃が、全身を駆け巡る。
血が止まってしまいそう。
思わず、そんな錯覚さえしてしまうほど。
「い、いや………っ、止めて!」
声が震える。
体から力が抜けて、抵抗らしい抵抗も出来ない。
「静かに、と言っただろう。………黙って、言うことを聞いてくれ。」
冷たくそう言い放った上条さんが、私の体を強く引く。
抵抗も虚しく、私はどこかへ押し込まれてしまったんだ。
キィーー……
遠くに聞こえる、ドアの開閉音。
世界の終わりを告げる音に聞こえる。
お前は、もう助からないんだ。
そう言われている気がする。
その音は、残酷な愛の始まりを告げる音。
「………っ、はっ………。」
解放された瞬間に聞こえた、もう1つの音。
ガチャン。
鍵を閉めた時に聞こえる、金属的な響き。
その音に敏感に反応した私は、すぐに瞼を開けた。
(どこ………?)
ここは、どこなのだろう。
狭い部屋。
真っ白な壁紙に彩られた部屋。
温かな色合いのフローリング。