社内恋愛のススメ



「有沢、困ってますよ。こんな所で引き止めて、上条さんは一体何をしてるんですか?」

「………、君には関係ないだろう!」

「有沢が嫌がってるの、分かりませんか?」

「何もしていない。君は、何か勘違いをしていないか?」

「別に、………見たままを言っただけです。」



夜のロビー。


他には誰もいないロビーで、長友くんと言い争っていた時と同じだ。

長友くんに激しく敵意をぶつけていたあの時と、同じ瞳。



(怖い………、上条さんが怖い。)


私の中の第六感が、迫る危機を告げている。



上条さんは、一見、冷たそうに見える。


何でも完璧に出来て、スマートで。

非の打ち所のない、大人の男の人。



だけど、実は誰よりも熱いのだ。

クールな外見とは真逆の心を隠し持つ、そんな人。


上条さんのこの目は、怖い。

上条さんがこんな目で私を見ている時に、いいことなんて起きないのだ。


それは、既に経験済みである。



上条さんが、何をしようとしているのかなんて分からない。


分からないけれど、逃げなければ。

今すぐ、ここから逃げなければ。



(動け、私の足!)


怯えてる場合じゃない。

怖がってる場合なんかじゃない。


逃げるんだ。

今すぐ、ここから逃げるんだ。



もしかしたら、この場を上手く切り抜けられるのかもしれない。

上条さんとちゃんと話せば、その可能性もあるのかもしれない。


しかし、切り抜けられる保証はない。

確実に、この場を上手く切り抜けられる保証なんて、どこにもない。



だったら、逃げる。


上条さんから、逃げる努力をしなければならないんだ。



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