社内恋愛のススメ



「い、嫌………っ、やだ………、止めて!」

「実和、実和………、愛してるんだ、実和。」


私の名前を呼び、愛を囁く上条さん。

愛おしいそうに、私に触れる。



ずっと憧れていた。


仕事をする姿に。

パソコンに向かう背中に。

私に仕事を教えてくれる、その目に。



だけど、そんな上条さんは、もう存在しない。

私が好きになった上条さんは、もういないのだ。


ここにいるのは、私が知ってる上条さんじゃない。



全くの別人。


まるで別の人みたいに変わってしまった、憧れの人だ。



「さ、触らないで………。こんなことは止めて下さい!」


お願いだから、これ以上、思い出を汚さないで。

好きになった過去まで、醜いものに変えないで。



「あなたには、奥さんがいるでしょう………!?」


あんなに美しい人が、あなたの隣にはいる。

みんなに紹介出来る、自慢の妻がいるじゃない。



ほんの数時間前。


ステンドグラスが綺麗な教会で、目の前にいる上条さんは、別の人と愛を誓っていた。

私が見ている前で、別の人と。



それなのに、どうして。


どうして、こんなことが出来るの?



結婚って、そんな簡単に出来るものじゃない。

簡単に出来るなら、わざわざ神の前で愛を誓ったりしないはずだ。


他の人と一生をともにする誓いを立てておきながら、昔の恋人である私を抱こうとするの?



その理由を教えてよ。


ねぇ、上条さん。



< 286 / 464 >

この作品をシェア

pagetop