社内恋愛のススメ
万が一、ということもある。
もしも、妊娠してしまったら。
上条さんの独りよがりな行為で、私の中に小さな命が芽生えてしまったら。
私だって、女だ。
そういうことだって、初めてではない。
体を重ねれば、そういうことになるかもしれないということくらい、分かってる。
赤ちゃんが出来るかもしれない。
ましてや、避妊をしていなかったのだ。
避妊をしていた時よりも、そういう可能性が高くなることは理解している。
可能性は低くない。
願っているだけでは、ダメだ。
だから、怠さが残る体を押して、病院を訪ねた。
アフターピルは、緊急避妊用のピル。
性交渉から72時間以内に服用すれば、かなりの高い確率で避妊することが出来る薬だ。
私には縁のなかったその薬の存在を知っていたのは、親友の紗織から聞いたことがあったから。
「実和は、アフターピルって知ってる?」
「アフター………ピル?何なの、それ。」
「あー、やっぱり知らない?ほら、この間、ここの近くで女の子が襲われる事件があったじゃない。」
あれは、まだ大学生だった頃。
紗織と同じ大学に通っていた頃の話だ。
大学の近くで、若い女の子が見知らぬ男に襲われる事件が起きたのだ。
その事件は、近くで起きたということもあって、私達大学生の間にも影響を与えていた。
紗織は、私よりもしっかりしてる。
この事件があってから、不安に思っていろいろなことを調べていた様だった。
「怖い………よね。ああいう話、聞いちゃうと。」
まぁ、大して可愛くもない私を襲う物好きなんて、いないだろうけど。
私がそう言った瞬間、紗織は呆れた様に怒り出した。