社内恋愛のススメ



「あのねー、実和。他人事じゃないんだよ?うちらだって、いつそうなるかも分からないんだからさ。」

「そうだけど………。」

「実和は危機感が足りないの!だから、この薬のこと、覚えておいて。」


そう言って、紗織からアフターピルの説明を受けていたのだ。



望まない性交渉を強要された時。

今回の事件みたいに、誰かに襲われてしまった時。


緊急的な措置で、子供が出来ない様にする薬。

要は、強制的に受精卵が着床しない様にする作用がある薬なのだ。


アフターピルという薬は。



「何かあってからじゃ、遅いから………。」


紗織も不安だったのだろう。

まだ捕まらぬ犯人に、怯えていたのかもしれない。


紗織の話を、真っ先に思い出したんだ。





望まない妊娠。


緊急的な措置で、子供が出来ない様にする薬。

強制的に、受精卵が着床しない様にするもの。


まさか、自分が使う日が来るなんて思わなかったけど。



たった1回。

されど1回。


その1回で、子供が出来てしまったらどうする?



今の私に、育てられるのだろうか。

産んで、父親がいない状態で育てて、果たしてその子は幸せになれるのだろうか。


子供が嫌いな訳じゃない。

私だって、子供は欲しい。



紗織の子供を見ていると、笑顔になれる。

幸せな気持ちで満たされる。


今すぐ、欲しい訳ではない。

でも、いつか、時期が来たら、欲しいなと考えているだけだ。



愛する人との間に、可愛い赤ちゃんを。


父親のいない家庭ではなく、きちんとした環境で迎えたい。



今は、その時ではない。

上条さんは、その相手にはなり得ない人。


上条さんは、過去の人なのだ。

私にとっては、過去に付き合っていた人間でしかないのだ。



愛していたけれど。

とても好きになった人だけど、彼との間に子供を作る訳にはいかない。


上条さんは、既婚者。

奥さんがいる人なのだ。


今日からは、文香さんの夫なのだから。



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