社内恋愛のススメ
長友くん以外に触られたくない。
感じたくない。
それなのに、体だけは感じていく。
繋がっている部分だけは、濡れて潤っていく。
嫌だ。
嫌だ。
もう嫌だ。
グッと唇を噛んで、俯いて答えた。
「避妊、し………っぱいしちゃって。それだけなんです。」
避妊を失敗したんじゃないよ。
避妊すら、してもらえなかった。
私って、何なんだろう。
上条さんにとって、私はどんな存在なのだろうか。
上条さんにとって、私は何なんだろうか。
「………なら、いいけど。もし、何かあるなら、警察に行きなさいね。」
「け………いさ………つ………。」
「カップルだろうと何だろうと、無理に行為を強いることは出来ないわ。」
そう言った先生が、サラサラとカルテを書き上げていく。
警察。
その言葉が、頭から離れない。
(警察………。)
頭では、理解している。
この行為が、犯罪であること。
訴えれば、確実に自分が勝てること。
私が、上条さんのことを訴える。
恋人だったあの人を訴える。
そのことで、何が起きる?
あの人が幸せになればいいと思って、別れることを選んだ。
あの人をこれ以上苦しめたくないと考えたからこそ、離れた。
好きという気持ちだけでは突っ走れなかった。
何も考えずに、その胸に飛び込むことは私には出来なかった。
(私が、上条さんの未来を閉ざす………。)
訴えたら、世間に知れる。
知られてしまう。
上条さんの犯した行為が、白日の元に晒される。
会社にもバレる。
文香さんにだって、知られてしまう。
あんなに幸せそうに微笑んでいた文香さんの笑顔を消すのは、私なのだ。