社内恋愛のススメ
あの別れが、意味を成さなくなる。
あんなにつらい思いをしたのに、何の意味もなくなってしまう。
私に出来るのだろうか。
そんなこと、私に出来るの?
(頭、痛い………。)
何も考えたくないのに、考えることは山積みで。
考えなければならないことは、後から後から出て来る。
「すいません、お世話になりました………。」
ここは、私には場違いだ。
私がここに来るのには、早過ぎる。
耳に残る音。
赤ちゃんの声。
目に映るもの。
幸せそうに笑う、母親の姿。
私は、真逆のことをしてるんだ。
宿るかもしれない命を消そうとしている。
命の芽生えを阻む薬を、私は手に入れようとしている。
見たくなくて、顔を逸らす。
逸らさずにはいられない。
処方された薬を手に、私は逃げる様に産婦人科を後にした。
マンションに帰って、すぐにパンプスを脱ぎ捨てた。
キラキラしたパンプス。
会社に履いていくには派手なこのパンプスを、2度と履くことはないだろう。
無理に奪われた体。
言葉さえ聞き入れてもらえなくて、何を言っても上条さんには届かない。
上条さんの心に、私の声は届かない。
最悪な思い出が残る靴なんて、もう履けない。
足を通せない。
履くだけで、私は思い出す。
きっと思い出してしまう。
今日のこと。
悲しい記憶に縛り付けられて、囚われてしまう。
私を乱暴に扱った、上条さん。
彼の影を纏うこの靴は、もう履かないと決めた。