社内恋愛のススメ
「…………っ。」
いつもなら、すぐに見るディスプレイ。
相手は誰だろう。
そんなことを考えながら、携帯電話を手にしていたはずだ。
今日だけは違う。
震える携帯電話を、手にすることが出来ない。
(きっと、きっと………。)
相手は、見なくても分かるから。
私に電話をかけている相手。
その相手は、長友くん。
私を待っているはずの、長友くんだ。
長友くんの顔が、頭の中に浮かぶ。
ただそれだけで、胸が騒ぐ。
息が苦しくなる。
心臓が縮こまっていく様だ。
小さく小さく、軋んで。
「ご、めんな………さい………。」
歪む。
歪む。
世界が滲んで、歪んでいく。
私は、………私は、長友くんを裏切った。
裏切ることになってしまった。
あんなに、私のことをずっと想っていてくれていたのに。
あんなに、私のことだけを見ていてくれたのに。
私はそんな真っ直ぐな長友くんのことを、裏切っている。
自分の意思ではなくても、裏切っているのだ。
全身が、罪悪感で押し潰されていく。
「長友………くん………。」
やっと見つけた、大切な人。
私のことを大切にしてくれる人。
「な、がとも………くん………。」
私を選んでくれた人。
私だけを選んでくれた人。
何度も何度も繰り返し呼ぶ名前が、いつもよりも切なく胸に迫る。
好きだよ。
大好きだよ。
愛おしくて、切なくて。
本当は、目の前にいるなら抱き付いてしまいたい。
その腕にすがり付いて、泣いてしまいたい。
だけど、それすら出来なくなってしまった。
長友くんは待ってる。
今もきっと、この寒空の下で私のことを待っている。
どうしたらいい?
外で待っていてなんて、言わなければ良かった。
長友くんに待っていてなんて、言わない方が良かったんだ。