社内恋愛のススメ
バスルームを出る。
用意しておいたジャージに着替えて、布団の中に潜り込む。
今は眠りたい。
ただただ、眠りたかった。
何もかも忘れて、寝ていたい。
眠ることで、忘れることなど出来ないと知っていても。
忘れることなんて無理なのだと、分かっていても。
「………。」
疲れた体は、すんなりと眠りの世界への誘いを受け入れる。
重く沈んでいく。
体も、心も、重く重く。
ぼやけていく視界。
朦朧とした意識に身を任せると、フワッと浮かぶ様に意識が飛んでいく。
その日は涙さえも拭わずに、そのまま眠ってしまった。
開けっ放しだったカーテンから、眩しい光が容赦なく部屋の中へ侵入する。
ユラユラ。
揺れる意識とカーテンがシンクロして、揺れる。
重なり合って揺れる。
「朝………か。」
目が覚めても、気分は晴れない。
決して、上がることはない。
そりゃ、そうだ。
あんなことがあって、まだ半日しか経っていないのだから。
優れないのは、気分だけではなかった。
体調も芳しいとは、とても言えない状態。
副作用。
その言葉が、脳裏をよぎる。
「ご存知かもしれませんが、この薬には副作用があります。」
昨日、産婦人科の女性医師が告げていたこと。
アフターピル。
無理に、着床を防ぐ薬。
強制的にそうするのだから、副作用もあって当然なのだ。
「う………っ、気持ち………悪………。」
覚悟をしていたつもりだった。
こうなる可能性があること。
何の痛みも副作用もなしに、効果を期待していた訳じゃない。
分かっていたけれど、それは想像を超えるつらさだ。
「うう………。」
気持ち悪い。
気持ち悪い。
トイレに駆け込んで、吐き気とひたすら格闘する。
食べ物なんか、見たくもない。
何も、口にしたくない。
しかし、吐いてばかりではいられないのだ。
私には、やるべきことがある。
12時間後。
また同じ薬を、飲まなければならない。
アフターピルは、1回だけで済む薬ではない。
もう1度、あの薬を口にしなければならないのだ。
飲みたくはないけれど、仕方ない。