社内恋愛のススメ
「さむ………い………。」
寒い。
寒くて、堪らない。
エアコンを付けていて、温められているはずの部屋。
それなのに、寒さを感じてしまう。
体の奥が冷えているのだ。
芯から来る震えが、私の体を冷やしていくのだ。
怯えが、震えを呼ぶ。
震えるほど、寒気が起きる。
これでは、悪循環だ。
そうは分かっていても、自分ではどうすることも出来ない。
毛布で体を温めれば、治るの?
そんなはずない。
この震えは、怯えは、そんな物では収まらない。
寒い。
怖い。
助けて。
誰か、助けてーー……
あの人が来る。
あの人が来て、私を虐げる。
無理矢理に抱いて、私の心を壊していくのだ。
怖いよ。
怖い。
上条さんが怖いーー……
その時だった。
インターホンの音が聞こえたのは。
ピンポーン。
滅多に鳴らないインターホンが、部屋の中にまで響く。
機械的な音が、私の鼓膜までも震わせる。
誰かいる。
私の部屋の前に、誰かいる。
(まさか、上条………さんなの?)
また、私を襲いに来たの?
私に、何かを言いに来たの?
止めてよ。
もう何も、聞きたくない。
会いたくもない。
(い、や………、来ないで!)
インターホンの音が、虚しく響く。
私は出ることも出来ず、部屋の中でうずくまるだけ。
(会いたくない!)
恐怖に支配される私の耳に届いたのは、長友くんの声。
ドア越しに聞こえる、大好きの人の声。
1番会いたかった人。
でも、1番会えないのだと思っていた人の声だった。