社内恋愛のススメ



長友くんが畳みかける様に、私に言葉をぶつける。



「なぁ、有沢。何で、昨日………先に帰った?」


責める様な言葉なのに、長友くんの声は温かい。

温かな色が滲んでいた。



「………っ。」


昨日から緩みっぱなしの涙腺が、再び壊れ始める。


ポロリ。

1粒、涙が溢れた。



「き、きの………うは………」


昨日は、昨日はーー……


どう説明すればいいの?

何って、言えばいいの?



嫌われたくない。

私、長友くんに嫌われたくないよ。


昨日の記憶が蘇る。



破られたワンピース。

剥ぎ取られた下着。

貫かれた体。


心は拒絶しているのに、体だけはバカ正直に反応して。



嫌だったのに、長友くんではない人に抱かれた。

長友くんではない人に、体だけは感じていた。


昨日のことを、正直に言わなければならないことは分かってる。

ありのままを伝えなければならないんだって、分かってるんだよ。



だけど、怖いんだ。


軽蔑されたくない。

嫌われたくない。


長友くんと別れたくないーー……



ずるいね。


ずるくて汚れてて、最低な自分。

何とか誤魔化せないかって、そんなことを考えてしまう自分。



そんな自分のことが、心底嫌になる。


それでも、嘘をつくのも嫌で。

長友くんにだけは、どうしても嘘をつきたくなくて。


黙り込んでしまった私に、長友くんはこう言ったんだ。



「別に、怒ってないから。お前のことが、………心配だっただけ。」


照れた様に、そう言う長友くん。


ドアの向こうにいる長友くんの姿が、手に取る様に分かる。

長友くんの様子が、簡単に想像出来てしまう。



きっと、視線を逸らしてる。

そっぽを向いて、違う場所を見てるはず。


恥ずかしそうに、耳まで真っ赤に染めている長友くんの姿が見える。


インターホンの、更にその向こうに。



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