社内恋愛のススメ



私と上条さんがしたこと。

それがいけないことであるのは、自分でも分かってる。


分かっているからこそ、こんなに悩んだ。

こんなに苦しんだ。


それが、自分の意思とは関係なく、強要された行為だったとしても。



(誰?)


誰なの?


あの時間のことを知っているのは、私と上条さんだけ。

当事者である、私達だけのはず。



あんなこと、誰にも話せない。

自慢話にもならない。


上条さんは、口が軽い男じゃない。

簡単に、自分が犯した行為を口にする人なんかじゃない。



私だって、そう。


あの日から、まともに誰かと話す機会さえなかった。

唯一、話したのは部長くらいなもの。


それなのに、一体、誰がこんなことをするのだろう。

知られていないはずのことを、誰がどうやって知ったのだろうか。



(私か、上条さんに………危害を与えようとしている人がどこかにいる。)


思い浮かんだのは、そんなこと。


誰なのかまでは、分からない。

だけど、私か上条さんのどちらかに、確実にダメージを与えようとしている人間がいるということだけは事実だ。



私と上条さん。

そのどちらかに、関わりがある人の中の誰かが。


こんなこと、何の得になるのだろう。

こんなことをして、誰が利益を得るのだろう。



回らない頭で、必死に考えてみる。


しかし、どれだけ考えてみても、その答えが分からない。

導き出せない。



会社で、上条さんと争っている人だろうか。

それとも、私の存在を気に入らないと思っている人だろうか。


そもそも、上条さんの相手が同じ企画部の私であるということにまで、ファックスを送り付けてきた人間は気付いているかも分からない。



全てが、闇の中。


全てを知るのは、ファックスの向こう側の人間のみ。



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