社内恋愛のススメ
彼女がこの2週間考えていたことは、確かに私にも関係することなのだから。
「笑わないの。何を考えているのか分からなくって、いつもどこか上の空だった………。」
私が泣いていた2週間。
深く深く底に沈んで、もがくことしか出来なかった毎日。
その間の上条さんの様子が、妻である文香さんの口から語られていく。
あのことの被害者が私であるならば、加害者は上条さん。
加害者である上条さんの様子を思い浮かべるだけで、胸がギュッと締め付けられる。
もっと憎めたらいいのに。
もっともっと、責め立てることが出来ればいいのにな。
それが出来たなら、楽になれるのだろうか。
悶々としたこの心は、解き放たれるのだろうか。
それが出来ない私は、弱虫だ。
「無理矢理結婚を迫った様なものだから、仕方ないと思った。彼からしてみれば、脅されたと感じても当然。」
結婚前のことを思い出し、苦い顔をする文香さん。
私は言葉を挟まず、彼女の声に耳を澄ませる。
反論も助言も、今はいらない。
文香さんは、私にそんなことを期待してるんじゃない。
今の文香さんが欲しいのは、自分の話を聞いてくれる人。
自分の言葉をそのまま、受け入れてくれる人なのだ。
上条さんは言っていた。
「彼女との縁談は、最近決まって………。実和と付き合い始める前からそういう話はあったんだが、ずっと断り続けていたんだ。」
あの言葉の通りだった。
「どうしても、あの人が欲しかった。我が儘だって分かっていたけど、それでもあの人が良かった。」
あの日。
私が全てを奪われたあの日に感じていたことは、間違っていなかったのだ。
幸せな花嫁ではなかったかもしれないけれど、花嫁は自分の夫となる人間を愛していた。
狂おしいほどに、愛してやまなかった。
その方法が、例え間違っていたとしても。
強引だったとしても。
そのくらい、あの人が欲しかった。
そういうことだ。