社内恋愛のススメ



「他の女に取られる前に、手に入れたかった。結婚したかった、………どんな手を使ってでも。だから、父に頼んだの。」


文香さんの強い意思が、言葉にまで宿る。



それほどまでに、好きな人。

それほどまでに、愛している人。


分かるんだ。

私だって、そうであったから。



本気だった。

本気で、あの人のことを愛していた。


上条さんのことが好きだった。



だからこそ、身を引いた。

涙が枯れるほど泣いて、手を離した。


憧れじゃない。

本当に、本当に好きだった。



今はもう、別の人を見ているけれど。

上条さんのことを、今でも愛している訳ではないけれど。


彼を愛した過去を後悔したことはない。

きっと、これからもそう。



誰かを一生懸命愛した。

好きになった。


それは、素敵なことだから。

どんな別れであれ、人を愛することは素晴らしいことだから。



過去があるから、今がある。

過去の自分がいるから、今の私がある。


過去の自分がいなかったら、今の私は存在していない。



そのことを知ったのだ。



「いつか、私のことを見てくれればいいと思っていたの。………時間なら、たくさんある。」


そう。

結婚したのだから。


安易に考えていた彼女は、愕然とした。

ある物を見つけてしまったことによって、彼女の考えは根本から崩れていく。




「結婚する前に、彼の部屋に行ったの。押しかけて行ったと言うべきかしらね。………聞いてよ。あの人、私のことを放って、電話で呼び出されて仕事に行ってしまったのよ。」


文香さんの口調が、呆れたものへと変わっていく。



「大きな本棚があって、そこに手を伸ばした。ただ、どんな物を読んでいるのか、興味があって。」


そこで彼女が目にしたのは、自分には縁のない本。

読もうとすら思わなかった本ばかり。



「知りたかった。どんなことでも、あの人のことならば………。」


結婚するまでに付き合う期間が少なかったからこそ、文香さんはそう思ったのだ。

そんな彼女が見つけてしまったのは、1枚の写真。



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