社内恋愛のススメ
どんなに、愛した時間があったとしても。
どんなに、その別れがつらいものだったとしても。
全ては、過去の時の流れの中にある。
時の流れの彼方に消えてしまったことなのだ。
今は、別の道を歩いている。
私には、長友くんがいる。
上条さんには、文香さんがいる。
大切にすべき人が、他にいるのだから。
文香さんが強引に、結婚を進めていたとしても。
上条さんが押し切られる形だったとしても、上条さんが最終的に選んだのは私ではなかった。
私と上条さんが歩くのは、別の道。
交わることは、2度とない。
交差していたはずの道は、いつの間にかこんなにも離れてしまった。
再び同じ道を歩くことはないと、分かっている。
私も、きっと上条さんも。
同じ未来に、私と上条さんの姿はないのだ。
しかし、私のそんな思いは、文香さんには届かない。
傷付いた彼女の心に、私の言葉は響かない。
「本当に………?」
「本当です!」
「今でも付き合ってるんじゃないの?」
疑いを捨てられない文香さんが、鋭い目で私を睨み付ける。
整った顔から発せられる怒りは、その威力を倍増させる。
美しい人は見た目はとても綺麗だけど、怒ると素晴らしく恐ろしいものなのだ。
思わず怯みそうなるけれど、引けない。
引く訳にはいかない。
「付き合ってなんかいません………。終わったことです。」
文香さんは知らない。
あなたの存在が、私と上条さんの別れを導いたこと。
あなたの存在が、私と上条さんに別れをもたらしたこと。
でも、知らなくていい。
それで、みんなが幸せになれるのならば。
誰かが笑顔になれるのなら、知らないままでいい。
「私には、別に付き合っている人がいるんです。上条主任ではない人と、お付き合いしているんです。」