社内恋愛のススメ
私の言葉は、私の気持ちをそのまま口に出したもの。
道を外してしまった。
自分から望んだ訳ではないけれど、上条さんに抱かれた。
大切な人を、長友くんのことを裏切ってしまった。
それでも、私の気持ちは変わらない。
変えられないんだ。
上条さんとやり直すことはない。
そんなことは有り得ない。
決まっていたのだ。
上条さんが断りきれずに文香さんを選んだ時点で、この運命は決められていた。
私は、それを受け入れた。
抗うことなく、定めをそのまま受け入れたのだ。
そして、歩き始めた。
上条さんがいない未来を。
ずっと隣を歩いてくれるものだとばかり思っていた長友くんの手を離すことになっても、上条さんを選ぶことはない。
そう、言い切れる。
固い決意とは裏腹に、文香さんは私の言葉を信じようとはしなかった。
「そんなの、口ではどうとでも言えるわ………。」
美しい線を描いていた彼女の眉が、いびつに歪んでいく。
幸せそうに微笑みを浮かべていた花嫁の姿は、もうない。
文香さんにこんな顔をさせているのは、私。
幸せな花嫁を不幸にしているのは、私だ。
(………、誰も不幸になんかしたくなかったのに。)
幸せになりたかった。
幸せになって欲しかった。
それなのに、誰も幸せになれない。
誰1人として、幸せになれない。
私が選んだ先に待っていたのは、悲しい未来。
虚しい現実。
私も彼女も、長友くんも上条さんも、お互いがお互いを想う気持ちが強過ぎて。
だから、絡まる。
空回りして、複雑にもつれ合う。
誰かを不幸にしてまで、自分だけが幸せになりたくない。
なれるはずがない。
そう思って、選んだ答えだったのに。
結局は、誰も幸せになんてなれなかった。
「分かって下さい………!本当に、今は何の関係もないんです。」
「信じられないのよ、あなたの言葉なんて。」
「し、んじて………下さい。本当なんです。」
「嘘つきね、あなたは。」
どんなに言っても、信じてもらえない。
言葉が届かない。
彼女の心に、私の言葉は入り込めない。