社内恋愛のススメ
『誰なのかは、分かっている。』
『隠そうとしても、無駄だ。不道徳な人間には、制裁を。』
『地獄に落ちろ!』
切り抜かれた文字を貼り合わせて作られたそのファックスを見て、恐怖心に駆られた。
こんな物を見てしまえば、誰だって怖くなる。
私だって、例外ではない。
(まさか、これ………。)
彼女が作ったの?
目の前にいる人。
上条さんの妻になった彼女が、作ったの?
信じたくない。
信じられない。
そのまさかを、彼女は否定してくれなかった。
笑顔で、私が思っていたことを肯定してくれたのだ。
「それね、私が作ったのよ。」
「………う………そだ………。」
「作るの、結構苦労したんだから。」
細い指をピンと伸ばし、爪の先をうっとりと眺める文香さん。
彼女の細い指の先は、淡いピンク色で彩られている。
場違いな可愛らしいそのピンク色の爪の先端にあるのは、キラキラしたネイル用のラインストーン。
お姫様みたい。
可愛らしくて、綺麗で。
社長令嬢の彼女にぴったりな、素敵なネイル。
水仕事なんか、したことがないのだろう。
洗い物も洗濯も、自分ではしなくてもいいのかもしれない。
そう思わせるほど、滑らかな肌。
陶器の様に、白く透き通った肌。
上条さんの隣に並んでも、見劣りしない人。
胸を張って、上条さんの隣にいられる人。
そんな彼女が、あの脅迫紛いのファックスを作り出したというのだろうか。
「嘘ですよね………?」
未だに信じられない私は、文香さんにそう問う。
そんな私を見て、文香さんがさも愉快そうにまたクスクスと笑った。