社内恋愛のススメ



「私はともかく、上条さんに迷惑がかかっても………それでもあなたは平気なんですか!?」


自分の夫に不利益になることを、どうして妻である文香さんが出来るのだろう。

夫が落ちていく様を願うのだろう。



「………、あなたは、上条主任の奥さん………でしょう?」


私を捨ててまで、あの人はあなたを選んだのに。

私も上条さんも、身が引き裂かれるほど悲しい決意で、今のこの道を歩き始めたのに。


私が口にした正論に、文香さんは不機嫌そうにこう答えた。



「そんなの、構わない。」

「え?」

「彼を失うくらいなら、彼をあなたに渡すくらいなら、そんなの………どうってことない!」


そう言い放った彼女の目から、1粒の大きな涙が零れ落ちる。



その涙は、どこか純粋で。

キラキラしていて。


憎めればいいのに。

こんな人のこと、嫌いになれたらいいのに。



そんな綺麗な涙を見てしまったら、私は………私は、憎めなくなる。

嫌いになんてなれなくなる。


全てを壊してしまいたいほど、人を好きになる気持ちだけは分かるから。

理解出来るから。


ただ、それを実行に移さないだけで。



私もいつか、こんな風に思ってしまう日が来るのだろうか。


狂おしいほど、長友くんのことを求める日が。

長友くんの全てを壊してしまうことを願う日が訪れるのだろうか。



彼女が最後に発した言葉は、ファックスを締め括った言葉と同じものだった。







「ねぇ、有沢 実和さん。」

「………。」

「私、あなたが嫌いよ。大嫌い。仁さんの心を簡単に持っていってしまうあなたのことが、大嫌いよ。」


嫌い。

大嫌い。


その言葉が回る。

回って回って、私の心に傷を刻んでいく。



「地獄に落ちて。………2度と這い上がれないほど、遠くに消えて。」


これが、あの過ちの代償。



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