社内恋愛のススメ
大変なことになる。
きっとこれから、私達は今までの様にはいかなくなる。
あのファックスには、私の名前は記されていなかった。
1番最初に手にした私は、隅々までよく見たのだから。
それなのに、私の存在が広まっている。
名前も知らされていない相手の存在が、
人事部にまで知られてしまっている。
ファックスに堂々と名前が書かれていた上条さんは、尚更逃げることが出来ない。
そうすることで、文香さんは夫を籠の中へと閉じ込めようとしているのだ。
夫とその相手を貶めることで、夫の心を掴もうとしている。
(それに、あの人がどこまで知っているかなんて………誰にも分からない。)
社長の娘。
裕福な家庭で生まれ育ち、苦労を知らずに育ったお嬢さん。
思い通りにならないことなんて、今までの人生できっとなかったはずだ。
ハードルなんて、彼女の歩く道にはなかった。
結婚ですらも、自分の思い通りになる様に周りを巻き込んだ彼女のことだ。
人生で初めてのハードルが、正に今。
お金がある彼女ならば、人を雇うなんて、容易いこと。
上条さん自身に聞いたという訳でもないだろうに、私の名前だって知っていた。
長友くんのことだって、調べられていてもおかしくない。
もしかしたら、もう知っているのかもしれない。
私が名前も明かさなかった、付き合っている人間の存在。
嘘つきだと罵りながら、既に彼女は知っているのかもしれない。
文香さんは、どこまで調べてる?
どこまで知っている?
ゾクッと震える足。