社内恋愛のススメ



急速にフル回転していく脳と、醒めていく心。

不安で堪らない。


これから、どうなってしまうのだろう。



私も、上条さんも。

長友くんも。


これからのことを考えるだけで、胸が詰まる。



だけど、はっきり分かるのはーー………



(犠牲になるのは、私だけでいい。)


そう、私だけでいいんだということ。



上昇志向の強い上条さんの未来を、私が閉ざしてはいけない。


上条さんが仕事に打ち込む姿を、私は誰よりも近くで見つめてきた。

一緒に気まずいながらも仕事までして、上条さんとともに最後に大きなプロジェクトにまで関わることが出来た。



有能な上条さんの将来は、守るべきもの。


私なんかの存在があるせいで、上条さんのこれからに傷を付けられない。



それに、長友くん。

この問題には何の関係もない長友くんのことは、もっと守りたいと思う。


だって、長友くんは何も知らない。



私と上条さんとの間に起きたこと。

今、こうして、私が窮地に追い込まれていることも。


巻き込みたくない。


何も知らない、長友くんを。

何も悪くない、長友くんのことまで巻き込みたくないのだ。



文香さんが、どこまで知っているのか。

長友くんのことまで知っているのかは、分からない。


そうであることを願いたい。





(私は、どうなってもいい………。)


どうせ、会社を辞めようとしていたのだから。


長友くんと一緒にはいられない。

上条さんと一緒に仕事をすることも、今の私にとっては無理なこと。



あの2人から離れることしか、考えていない。


どうなってもいい。

どうなっても構わない。



だから、せめて愛した人を守りたい。

今、愛している人を守りたいのだ。


大切な人を、私のこの手で守りたい。




「部長、すぐに向かいます。」


私は短くそう告げて、会議室を後にした。



< 349 / 464 >

この作品をシェア

pagetop