社内恋愛のススメ
(文香さん………。)
あの人は、本気だ。
本気で、私のことを潰そうとしている。
夫を奪われてしまうと、本当に思っているのだ。
私にそんな気がないとしても、あっちはそうは思っていないということだ。
文香さんの本気の度合いが、彼女の行動に表れている。
文香さんが本気なら、私だって負けられない。
決めたのだ。
愛していたあの人を、今、愛している人を守るのだと。
絶対に守ってみせると、心に誓った。
「確かに、以前は………主任が結婚する前まではお付き合いしていました。」
そう。
それは、真実。
ポツリポツリと話し出す私に、うちの部長が目を丸くして驚いている。
そりゃ、そうだよね。
部長になんて、言ったことなかった。
上条さんとお付き合いしていますって、そんなこと言えなかった。
だからこそ、上条さんと文香さんの結婚を、自分のことの様に喜んでいたのだろう。
優れた自分の部下と、取引先の社長の娘との結婚を。
部下の恋愛話なんて、聞く機会はないのだろう。
寝耳に水。
正に、そんな状態の部長。
「だけど、それは過去の話です。もう終わってしまったことなんです!」
私は、そうはっきりと断言した。
思い出したくもない、あの日。
上条さんと文香さんの結婚式の日。
惨劇とも呼べるあのことは、人事部の部長には言えなかった。
言えるはずがなかった。
証拠もない。
知っているのは、私と上条さんの2人だけ。
信じてもらえなくても、信じてもらえようとも、口にしない方がいいと思った。
(分かってもらえるまで、いくらでも説明してやる………!)
誰がどんなことを言おうと、事実は変わらない。
私と上条さんは、今はもう、付き合ってなんかいない。
男女の仲ではない。
想いさえ通じ合うことのない、一方通行の関係なのだ。