社内恋愛のススメ
昔は違っていた。
入社した頃から憧れていて、想いが届いた時には涙さえ浮かんだ。
大好きで、大好きで。
だけど、ほんの少ししか一緒にいられなかった。
憎めないんだ。
どんなに酷いことをされても、心の底からは憎めない。
今は別の人を愛していたとしても、あの人を好きだった過去は消せない。
いくらでも説明しよう。
納得してもらえるまで、どれほど時間がかかったとしても。
そう思っていたのに、人事部の部長から返されたのは拒絶する言葉だけだった。
「もういい。」
「………そんな、ちょっと待って下さい!」
「今がどういう関係であるかを聞きたくて、君をここに呼んだ訳じゃない。」
吐き捨てる様に、そう言う人事部の部長。
白髪混じりの髪を掻き分けて、苛立ちを隠そうともしない。
厳しい言葉。
厳しい口調が予感させる、悪い結末。
(ダメだ………。このままじゃ、分かってもらえない!)
もっと説明しなければ。
このままでは、この人に理解してもらえない。
私と上条さんのこと。
決して、怪しまれる様な関係ではないこと。
「………有沢、止めろ。」
私が反論を口にする前に、トントンとうちの部長に肩を叩かれる。
(部長まで、諦めろって………そう言うの?)
私は、自分の保身を考えてる訳じゃない。
ただ、守りたかっただけ。
愛していた人と、今、愛している人のこと。
嫉妬に狂った文香さんの手から、2人を守りたかっただけなのに。
どうして、止めるの?
フッと力が抜けて、うなだれた。
「重要なのは、これから起き得ることだけだ。君に、その意味が分かるか?」
「これから、起き得る………こと。」
人事部の部長のその言葉で、私は文香さんが言っていたことを思い出す。