社内恋愛のススメ



「そうか。そうだったんだな………。」


部長が悲しげに笑って、目を逸らす。


部長は、私のことを責めようとはしなかった。



不倫は、本当のことなのか。

事実は、どうであるのか。


何も聞かないでいてくれたのは、私と上条さんの両方をよく知っているからかもしれない。



私が、どういう人間であるか。

上条さんが、どういう人間であるのか。


どちらも知っているからこそ、人事部の部長の様には責められなかったのだ。



「部長、私………これからどうすればいいですか?」

「そうだな。とりあえず、今日はもう帰れ。」

「はい………。」

「追って連絡するから、正式な辞令が出るまでは自宅で待機していろ。いいな?」

「………、分かりました。」


これからのことをサラリと話し、部長が企画部のフロアに戻っていく。



「申し訳ありません、部長………。」


立ち去っていく部長の後ろ姿に、私は頭を下げてそう呟いた。




「はぁ………、どうしよう。」


重い溜め息。

空中にすら浮かない溜め息が、地面へと真っ直ぐに落下していく気がする。


息苦しい空間に、身を置いていたせいだろうか。

こんなにも、溜め息が止まらないのは。



帰りたくない。

こんな状態のまま、マンションに帰っても気分が沈むだけだ。


何となく、そのまま帰る気分にもなれなくて。



少しだけ、時間が欲しかった。


自分の気持ちを整理する、そんな時間が。

肩の荷を下ろす、そんな一瞬が。


自分のデスクに戻る前に、私はある場所に寄り道をすることにした。



< 359 / 464 >

この作品をシェア

pagetop