社内恋愛のススメ
「そうか。そうだったんだな………。」
部長が悲しげに笑って、目を逸らす。
部長は、私のことを責めようとはしなかった。
不倫は、本当のことなのか。
事実は、どうであるのか。
何も聞かないでいてくれたのは、私と上条さんの両方をよく知っているからかもしれない。
私が、どういう人間であるか。
上条さんが、どういう人間であるのか。
どちらも知っているからこそ、人事部の部長の様には責められなかったのだ。
「部長、私………これからどうすればいいですか?」
「そうだな。とりあえず、今日はもう帰れ。」
「はい………。」
「追って連絡するから、正式な辞令が出るまでは自宅で待機していろ。いいな?」
「………、分かりました。」
これからのことをサラリと話し、部長が企画部のフロアに戻っていく。
「申し訳ありません、部長………。」
立ち去っていく部長の後ろ姿に、私は頭を下げてそう呟いた。
「はぁ………、どうしよう。」
重い溜め息。
空中にすら浮かない溜め息が、地面へと真っ直ぐに落下していく気がする。
息苦しい空間に、身を置いていたせいだろうか。
こんなにも、溜め息が止まらないのは。
帰りたくない。
こんな状態のまま、マンションに帰っても気分が沈むだけだ。
何となく、そのまま帰る気分にもなれなくて。
少しだけ、時間が欲しかった。
自分の気持ちを整理する、そんな時間が。
肩の荷を下ろす、そんな一瞬が。
自分のデスクに戻る前に、私はある場所に寄り道をすることにした。