社内恋愛のススメ



「他に、誰がいるんですか?」


他のヤツなんて、俺にはどうだっていい。


今の俺の中で1番大切なことは、有沢のこと。

俺に別れを告げて消えてしまった、大好きな人のことだ。



彼女以外、いる訳ないだろ。


逃がさない。

今日だけは、絶対に。



この人が、俺の知らない何かを知っているのなら。

有沢に関する何かを知っているのならば、俺はそれを全力で聞き出す。


それだけだ。



「何も知らないさ。」


本当か。

本当なのか。


疑いを捨てきれない俺が睨み付ければ、上条さんが視線を落とす。


目を伏せて、目の前の男が呟く。



「僕だって、君達と同じこと以外、何も知らされていないんだ………。」


自分を嘲笑うかの様に、そう言った上条さん。



覇気のない顔。

疲れた表情。


今日までいつも通りに見えていたのは、気を張っていたからなのだろうか。

この人はこの人なりに、有沢がいなくなった穴を埋めようとしていたのだろうか。



頭のいい男だ。


これ以上同じことを聞いても、きっと答えてもらえない。

何も聞き出せない。


ならば、別の手を使うまで。



「じゃあ、質問を変えます。………有沢と、何かあったんですか?」


有沢。

その名前に、上条さんが一際大きく反応する。



当たりだ。

当たってしまったんだ。


当たって欲しくなんかなかった。


でも、どこかでそんな気がしていた。



有沢と、連絡が取れなかった2週間。

有沢と最後に会ったのは、結婚式の日。


そう。

目の前にいるこの男の結婚式の日に見たのが、有沢の最後の笑顔だった。



インターホン越しに言葉を交わしたけれど、中に入れてはもらえなかった。

簡単に追い払われてしまった。


有沢に何かがあったとするなら、きっとあの結婚式の日。



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