社内恋愛のススメ



俺と有沢が別れた、あの後に違いない。


疑いが、確信に変わっていく。



「知りたいか?」

「………はい。」

「僕と彼女の間に、何があったのか………君は知りたいのか?」

「そのことが有沢がおかしくなった原因なら、俺は知るべきだと思います………。」



俺は、もうただの有沢の同僚じゃない。


今は別れを告げられてしまっていても、あの時、俺は有沢の恋人だった。

婚約なんてしていなくても、有沢とは深い関係にあったのだ。



俺には、誰よりも知る権利がある。


有沢に何が起こったのか、知らなきゃいけないんだ。


俺は率直に、自分の意見を言う。

そんな俺を見て、上条さんは耐えきれなくなって、笑ったんだ。





「くくく………っ、ははっ。」


心底楽しげに笑う、上条さん。

この人が仕事以外で笑ってもいる所なんて、初めて見た。


でも、愉快そうに笑っている様に見えた笑顔は、歪んでいて。

無駄に整った顔立ちが歪んでいく様を、俺は酷く醒めた目で見つめていた。



「そんなに知りたいなら、教えてあげよう。あの日、僕の結婚式の日、僕は………彼女を抱いたんだよ。」

「………!」


ストンと、上条さんの言葉が心に落ちていく。


抱いた。

抱いたんだ。


目の前にいるこの男が、あの日、俺の愛する彼女を抱いたんだ。

俺の大好きな女は、俺でない男に足を開いた。



受け入れ難い現実が、重みをともなってのしかかる。



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