社内恋愛のススメ
「最初は驚いていたけれど、だんだん気持ち良さそうにしていたよ。」
嘘だ。
そんなの、嘘に決まってる。
「ははっ、君じゃ、物足りなかったんじゃないかな?」
目の前の男の皮肉に、心臓が切り裂かれる。
抱いた時の、有沢の感じている顔。
普段は色気なんてないクセに、やけに艶っぽくなる表情。
俺の知っている有沢の女の部分。
それを、この男の前でも見せていた。
別れたはずの、この男の前で。
俺じゃ、ダメ。
俺では物足りない。
俺を選んでくれたはずの有沢は、この男の下でよがって、声を上げた。
それは、事実なのだろう。
点と点とが、繋がっていく。
全ては繋がらないまでも、だんだんと全景を映し出していく。
「長友くん、有沢さんは君を捨てたんだよ。君じゃなくて、僕を選んでくれた。………そういうことだ。」
次の瞬間、俺は上条さんの胸倉を鷲掴みにしていた。
鈍い痛みが、拳に走る。
微かに、血が滲む関節。
気が付いたら、殴っていた。
力の限り、思いっきり殴っていた。
やってはいけないことなのだと、頭では分かっていながらも。
心よりも先に、体が動いていた。
「は?今、何って言った!?」
詰め寄る俺。
そんな俺を笑う、上条さん。
俺よりも背の高い目の前の男を、強く殴り付ける。
何が楽しいんだよ。
すっげー、楽しそう。
ぶっ飛ばしてやりたい。
気を失うまで殴って、血だらけにしてやりたい。
捨てられた。
それは、事実かもしれない。
実際に、俺は別れを告げられた。
大好きな女に、さよならと言われたのだ。