社内恋愛のススメ
「僕は、………僕は、実和を愛してるんだ。君なんかよりも、ずっと実和のことを愛している。」
だったら、どうしてあの時、アイツを選んでやらなかったんだ。
婚約が決まるよりも前、有沢を選んでやらなかったんだ。
あの頃から、有沢はこの男に傷付けられていた。
見ていられないほど、苦しんでいた。
愛しているなら、1番にしてやれば良かったんだよ。
アイツのことだけを見ていて、アイツだけを愛してやれば良かったんだ。
もう遅いんだ。
何もかも。
有沢がいなくなってしまった今では、どうすることも出来ない。
入社して、7年目の春。
俺の隣に、彼女はいない。
入社以来、ずっと一緒に仕事をしてきた有沢は、俺の隣から消えてしまった。
その代わり、有沢のデスクには、新入社員が座ることになった。
「あ、長友先輩、おはようございまーす!」
短いスカートに、サイズがきつめのシャツ。
わざと大きな胸を強調する為に、着ているであろう白いシャツ。
クルンと巻いた、明るめのライトブラウンの長い髪。
濃い化粧。
睫毛なんか、付け睫毛だ。
人工的に作られた、不自然なカーブの睫毛が、目の上でワサワサと揺れている。
アイラインも濃いめだし、とてもじゃないけどビジネス向きとは言えない。
元の顔なんて、想像さえつかない。
有沢と違う女が、有沢の席に座ってる。
今でも忘れられない、彼女の席に座っている。
違和感を感じているのは、俺だけではないはずだ。
(この女、すっげー香水臭い………。)
先輩とか、勝手に呼ぶなよ。
俺は、お前の教育係じゃない。
出身大学だって同じじゃないし、仕事を教えてやってる訳でもない。
軽々しく、先輩って呼ぶな。
気安く話しかけてくるんじゃねえ。