社内恋愛のススメ
忘れられない。
長友くんの存在も、長友くんの言葉も。
きっと、何年経っても忘れられないのだろう。
好きだよ。
長友くんのことが好きだ。
裏切ったのは私なのに。
許されないことをしてしまったのは、私の方なのに。
私の心は変わらない。
変えられなかった。
どんなに忘れようとしても、長友くんの影がちらつく。
思い出さない様にと念じていても、ふとした瞬間に思い出してしまう。
もう、私の隣に長友くんはいないのに。
1年前のあの冬の日から、私は何も変わらない。
長友くんに最後に会ったあの日から、ずっと立ち止まったまま。
本社から飛ばされて、1年と2ヶ月。
2度目の春がやって来ていた。
カツン。
カツン、カツン。
ヒールの音を響かせて、私は今日も歩いていく。
ビルの谷間を颯爽と、前だけを見て。
まぁ、ビルとは言っても、それほど高いビルではないのだけれど。
それでも、見上げた空は狭い。
ビルとビルに挟まれて、青い空が小さな空間の中で広がっている。
本社から遠く離れた、地方都市。
私が飛ばされてしまった支社があるのは、東京からは遠い場所。
短い夏と、長い冬。
特徴的な季節を繰り返す、北の大地にある地方都市。
地方都市とは言えども、駅前はそれなりに栄えている。
東京よりも低いビルが、群れをなして空を覆う。
駅前に集中する、有名企業の支社のオフィス。
そう、例えるのなら、東京をもっとコンパクトにした感じだ。