社内恋愛のススメ



東京からは通えない。

そんな都市にある支社に、飛ばされてしまった私。


気に入っていたマンションは、もちろん手放すことになってしまったのは言うまでもない。



賃貸契約を解除して、わざわざこっちで家を探した。

駅前から少しだけ離れた場所にある会社の寮に、今、私は住んでいる。


土地勘のない場所では、住む部屋を借りることでさえ一苦労。

とりあえず、会社で借り上げたマンションの一室を貸してもらうことになったのだ。



ワンルームの小さな部屋。


それが、今の私の城。



寮の近くのバス停からバスに乗り、駅を目指して。

駅前でバスを降りてからは、ひたすら徒歩。


昔よりは、歩く距離も増えた。

健康的に、毎日少しだけ歩いて通勤してる。


ただ、冬だけは厳しい寒さに震えることになるけれども。



春になったとは言え、まだまだ肌寒いこの時期。

薄手のスプリングコートを羽織って、私は今日も歩いてる。



辞めようと思っていた。

区切りが付いたら、また辞表を出すつもりでいた。


しかし、本社からも、人事部からも連絡はない。


辞めるに辞められない事情を抱えているのも、1年と2ヶ月前と変わらないと言えるのかもしれない。



(うー、冷える!)


寒さに凍える体を丸めて、両手を擦り合わせる。

バスを降りてから時間が経てば、体も自然と冷えていく。



あー、ダメ。

もう耐えられない。


我慢の限界だ。

密かに、ポケットに入っているカイロに手を伸ばす。



そんな私の肩を叩く、1人の女性がいた。





トントン。


肩を軽く叩かれると同時に、振り返る。


振り返った先。

私の真後ろにいたのは、私と同じくコートを身に纏う女性。



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