社内恋愛のススメ



出会ったばかりの新入社員の女の子は、上条さんの近くにいる。

それに引き換え、こんな遠く離れた場所にいる私。


遠い。

遠いよ。

遠過ぎる。



私の方が、上条さんのことを知ってるのに。

私の方が、上条さんとの付き合いも長いのに。


ねぇ、どうして。


どうして、私はここにいるの?

どうして、こんな遠い場所に座ってるの?



私には、あんな勇気はない。

昔も、今も、あんな大それたことをする度胸も勇気もない。


彼の隣で、彼に寄り添うことが出来ない。

可愛らしく振る舞って、首を傾げることも出来ない。



止まっているだけ。

何もしないで、立ち止まっているだけ。


大人げなく、ヤキモチなんか妬いてるクセに。


いつでも、私は遠くから見ているだけだ。




「………はぁ。」


何、やってるんだろう。

何がしたいんだろう。


私、どうしたいんだろう。



ビールを前に、溜め息をつく。

楽しかった気分も、どんどん落ちていく。


楽しもうって、そう決めたのに。

この場をめいっぱいエンジョイしようって、そう誓ったのに。


落ち込む私の頭を、長友くんがポンポンと優しく叩いた。





「どうした?有沢、体調でも悪いの?」


さっきまでの態度が嘘の様に、しっかりとした口調で長友くんがそう聞く。


心配そうに、眉を下げて。

純粋そうなつぶらな瞳が、微かに潤んでいる。



長友くんの目が見れない。

長友くんの瞳を、直視出来ない。


だって、私とは違うから。



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