社内恋愛のススメ
「上条です。」
ボソッと、一言だけ自己紹介。
余計な言葉はいらない。
僕と彼女の間には何もないのだから、必要ない。
これが、彼女との初対面の瞬間。
それからというものの、僕は彼女とよく会話を交わす様になった。
いや、なってしまったというべきか。
そもそも、僕はそれほど同僚と会話をしたりしない。
必要最低限のことしか話さないし、話したいとも思っていなかった。
会社に来る理由は、仕事をしたいから。
誰かと話をしたくて、ここにいる訳じゃない。
他人と仲良くしたいが為に、ここに通ってる訳じゃない。
相変わらず素っ気ない僕に、彼女はめげずに話しかけてきた。
教育係の僕と、新入社員の彼女。
僕に話しかけてくるのは、当然と言えば当然なのだけれど。
「あ、上条さん!」
「………何?」
「すいません、少しお聞きしたいことがあるんですけど………いいですか?」
控えめに、そう聞いてくる彼女。
伏し目がちな目から覗くのは、怯えた色。
何も、そんなに怯えた目をしなくてもいい。
僕は、君をいびるつもりはない。
そもそも、君に興味もない。
だから、そんな目で見なくていいんだ。
言ってやる必要もないから、そんな言葉でさえも飲み込む。
「別に構わないけど、何が知りたいんだ?」
「あ、ここなんですけど………ちょっと分からなくて。」
本当に困った顔でそう聞いてくるから、断る気も起きない。
下げた眉。
揺れる瞳。
僕だって、人でなしじゃない。
そんな顔をされて無下に断るほど、冷たくはない。
教えてあげれば、ほら、明るい笑顔の花が咲く。
味気ないオフィスに、花が咲く。
「ありがとうございました!!助かります。」
花も綻ぶ笑顔に、僕の表情までもが緩む。