社内恋愛のススメ



好きなんだ。

僕は、彼女に恋していたのだ。


自分でも、気が付かないうちに。



一緒にいた頃は気が付かなかった。


仕事を教えていたあの子に、恋をしているなんて。

純粋に僕を慕ってくれるあの子に、こんな気持ちを抱いていくことになるなんて。



会いたい。

だけど、会えない。


自分から望んで、離れた。

日本ではなく、アメリカに来ることを決めたのは自分。


あの子から離れることを決めたのは、僕だ。





それからの4年は、やけに長く感じた。

今まで過ごしてきた時間の中でも、最も長く感じた4年間だったかもしれない。


望んでやって来た、アメリカ。

ステップアップの為に選んだ道。



自分でアメリカに来ることを望んでいたのに、早く帰りたいと思ってしまう。


あの子のいる、日本。

あの子のいる場所に帰りたいと、そう願ってしまう。



顔が見たい。

声が聞きたい。


言葉を交わしたい。

それだけでいい。



4年もの時間が流れている。

僕と彼女の間には、長い空白の時間が横たわっているのだ。


4年という時間は、決して短い時間ではない。



彼女は、今年で27歳。

大学を卒業したばかりの新入社員じゃない。


入社して、6年目。

結婚していても、おかしくはない年齢。


だからこそ、焦っていた。



(有沢さん………。)


どうか、誰のものにもならないでいてくれ。

まだ、誰のことも選ばないでいて欲しい。


自分勝手なことを願っているのは、分かっている。

そんなことを願う権利なんてないことは、誰よりも理解している。


だけど、どうか、それでも1人でいて。



まだ、気持ちすら伝えていないんだ。

胸にくすぶるこの想いの欠片すら、秘めたままなんだ。


こんな気持ち、初めてだ。



胸にあるのは、温かな気持ち。

湧き上がる、優しい気持ち。


初恋にも似たこの気持ちを、せめて彼女に少しでも伝えたい。



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