社内恋愛のススメ
気持ちを伝える時間。
その猶予は、僕には残されているのだろうか。
不安を抱えたまま、4年ぶりに僕は帰国した。
僕が抱いていた不安。
彼女は、既に結婚しているのではないか。
彼女は、もう大切な人を見つけているのではないか。
その不安は、幸運なことに現実のものとはならなかった。
有沢 実和。
彼女は相変わらず、本社の企画部で働いていた。
僕が、アメリカへと旅立つ前と同じく。
苗字が変わらないところをすると、独身のまま。
周りに流されて結婚をすることもなく、あの頃の彼女のまま。
指輪もしていないから、きっと特定の恋人も今はいないのだろう。
チャンスだと思った。
今しかないと、そう思った。
彼女を、手に入れる時。
彼女の恋人になれる可能性があるならば、それは今だ。
今しかない。
ただ、厄介なことに、彼女の傍に邪魔な男が1人いた。
長友 千尋。
確か、有沢さんと同期入社で入ってきた男。
新入社員ではなくなったその男は、今も彼女の近くをうろついている。
ああ、思い起こせば、入社したばかりの頃から、有沢さんの隣にはこの男の姿があった。
ちょうど、有沢さんのデスクの隣がこの男のデスクなのだ。
厄介だ。
僕よりもずっと彼女の近くにいて、今もまだ彼女の隣のデスクで仕事をしている。
何食わぬ顔をして、愛しい彼女の隣に陣取っている。
邪魔だと思っても、そう簡単にデスクを移動させることも出来ない。
今の僕は、ただの平社員じゃない。
主任に昇格したとはいえ、そこまでの権利が与えられている訳ではない。
しかし、引く気はない。
彼女を想うこの気持ちは、誰にも負けないつもりだ。
彼女の隣を陣取るこの男にも、他の誰にも負けない。
好きなんだ。
譲れないんだ。
他の人間にさらわれて、たまるか。
分かってた。
長友 千尋が、彼女を好きでいることくらい。
彼女を、同僚として見ている訳ではないことくらい。