社内恋愛のススメ
どうして、こんなに泣きたくなるの?
どうして、あの子に嫉妬しているの?
過去なのに。
あの恋は、昔のことなのに。
ねぇ、どうして。
その時だった。
彼の声が、私の耳に届いたのは。
「有沢さん?」
私を呼ぶ、低い声。
長友くんの声とは違う、深い色合いを滲ませる声。
誰?
そう考える前に、分かってしまう。
気が付いてしまう。
瞬時に判別出来てしまう声。
上条さん。
この声は、上条さんの声だ。
ずっと憧れていた人の声を、間違えるはずがない。
酔っていても、絶対に間違えない。
私の予想通りの人物が、スッと闇の中から現れた。
後ろに流した、黒い髪。
黒い縁のある眼鏡が、キラリと光る。
夜の闇と同化してしまいそうな、黒のストライプのスーツ。
座り込んでしまった私の前に立つ、背の高い彼。
上条さん。
上条さん。
彼の姿を認識した途端、すごい勢いで赤い血が全身を駆け巡る。
ドクン。
ドクン、ドクン。
痛いくらいに、暴れまわる心臓。
それを悟られたくない私は、不自然なくらいに明るい声でこう答えた。
「か、上条さん!」
あ、違った。
今は、上条さんは主任に昇格したのだ。
軽々しく、名前を呼んでいい人ではない。
「…………じゃなくて、上条主任。どうしたんですか!?」
クセって、恐ろしい。
あの頃と同じ様に呼んでしまいそうになるのを、必死に抑える。
(そっか、もう4年前とは違うんだね………。)
4年という時間は、こんなにも人との関係を変えてしまうのだ。