社内恋愛のススメ
帰ってしまうのか。
何も話せないまま、どこかへ消えてしまうのか。
やっと会えたのに。
アメリカから帰ってきて、まだ一言も話せていないというのに。
4年間、待ったんだ。
彼女に会える日だけを心待ちにして、仕事に打ち込んできたんだ。
僕にだって、意思がある。
心がある。
抜け出そう。
今すぐ、彼女を追いかけるんだ。
そのくらい、許されるだろう。
部長に、無表情で嘘をついた。
「部長、少し席を外します。電話なので。」
本当は、電話なんてかかってきてない。
かける必要もない。
仕事は、夕方までに完全に終わらせてきた。
少しくらいの嘘も、今日だけは許してもらいたい。
彼女と近付くチャンス。
きっと、それは今日だけ。
「あー、こんな時まで仕事か………上条くんは!君らしいな。」
「………失礼します。」
サッと立ち上がり、有沢さんを追う。
どこにいるんだ?
トイレか?
トイレだったなら、さすがに中まで入ることは出来ないが。
まさか、外だろうか。
もう帰ってしまったのだろうか。
一抹の不安を抱いて、一旦外に出る。
見つからなければ、また中に戻ろう。
彼女の姿を探して、どこへでも行こう。
酒を飲んでもふらつかないのは、明確な目的が目の前にあるからだろう。
(いた………、見つけた。)
予想以上に、彼女は簡単に見つけることが出来た。
彼女がいたのは、居酒屋の前。
居酒屋を出てすぐの場所に、ポツンと座り込んでいるのを見つける。
どうしたのだろう。
いつもは元気な彼女が、うなだれている。
立つ元気さえもないのか。
座り込んで、俯いている有沢さん。
居酒屋の中では、普段通りに見えたのに。
いつもみたいに、彼女の同期である仲間達と楽しんでいる様に見えたのに。
飲み過ぎてしまったんだろうか。
心配になって、声をかけた。