社内恋愛のススメ



「行かなーい!」


私はあっさりそう言って、長友くんの誘いを跳ね退けた。



長友くんに誘われたのが、嫌なのではない。

長友くんと飲むことが、嫌いなのではない。


長友くんはずっと一緒に仕事をしてきた、いわば同志。



ずっと隣で、お互いを鼓舞して働いてきた。

励まし合って。

時には、叱って。


気の許せる、数少ない同僚。

それが、私にとっての長友くん。



だけど。

だけどーー……


もしかしたら、上条さんに誘われるかもしれない。

そんな期待をしている自分がいる。


だって、あの夜、上条さんはこう言ったから。




「今度、食事にでも行かないか?」


忘れないよ。

忘れたくても、忘れられない。



「有沢さんの予定が空いている時で構わない。」


あの言葉。

ずっとその言葉を、私は待っていたのだから。



みっともない嫉妬をして、外に飛び出してしまった私。

頭を冷やす為。

冷静になる為に外に出ただけで、他に理由なんてなかった。


それなのに、上条さんは来てくれた。


私のことを追いかけてきて、言ってくれた。


多分、いや、きっと………一生忘れられないだろう。



あの言葉から、1ヶ月。

会社では時折話すことはあるけれど、何の進展もない私と上条さんの関係。


鳴らない電話。

私の携帯電話のディスプレイに、上条さんの名前が表示されることはなかった。



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