社内恋愛のススメ
あの時、交換した番号。
結局、怖くて押せずじまいの通話ボタン。
期待しているだけで、自分からは動けない。
ドキドキして、ただ待っているだけ。
こんな所まで、変わってない。
4年前も、今も変われないままだ。
携帯電話を握り締めて、緊張してるんだ。
金曜日の夜。
土曜日の夜。
休みの前の夜は、こんな風に。
(………バカみたい。)
だけど、止められない。
待たなくていいのに。
待つことを止められたらいいのに。
そうすれば、もう期待しなくても済む。
かかってこない電話に落ち込んで、涙を流すこともなくなる。
ギュッと握った、携帯電話。
ぼんやりと、その四角いフォルムを眺める。
その時、静かだったマンションの空間に、電子音がビリビリと響いた。
「わ!ビックリした………。」
驚かせないで欲しい。
こんな風に、携帯電話を持っている時には。
全く、心臓に悪い。
手の平で震える携帯電話を見つめて、ポツンと独り言を零す。
音は鳴らず、振動だけで着信を知らせる携帯電話。
どうやら、マナーモードにしたままだったらしい。
(会社で、マナーモードにしてたんだった。)
ついうっかり、マナーモードを解除することを忘れていた。
これでは、電話が鳴っていても気が付かない。
今は携帯電話を握り締めていたから分かったものの、離れていたら着信に気が付くこともなかっただろう。
震える携帯電話を開いて、電話をかけてきた相手を確かめようとした私。
カチッと音を立てて、折りたたみ式の携帯電話が内面を曝け出す。
ディスプレイに表示されていたのは、意外な人物の名前だった。
上条主任。
真っ白な画面の中に浮かんだ、あの人の名前。
気になって仕方ない、あの人の名前。