社内恋愛のススメ
「海斗くん、また来てね!」
「うん!!」
「お母さんと喧嘩したら、実和おばちゃんの所においでね?」
「実和ちゃん、大好き!」
ゴツンと、衝撃。
海斗くんの手を引いていた紗織の手が、私の真上にある。
親友から、ゲンコツをプレゼントされてしまった。
「うちの息子、そそのかさないでよ。」
「だって、可愛いんだもん。いつでも、養子にもらっちゃう!」
「…………、じゃあ、また来るわ。」
呆れた顔をして、紗織達はマンションの廊下の奥に消えていった。
バタン。
紗織達が見えなくなったのを確認してから、私は部屋のドアをゆっくり閉める。
金属製の重たいドアが、低い音を轟かせて閉まる。
いつも通りの部屋。
1人暮らしをしている私の部屋は、当たり前だけど私の他には誰も住んでいない。
何の音もしない。
誰もいない。
不気味な位、シーンと静まり返る部屋。
先ほどまでの楽しげな子供の声も、紗織の声も消えた部屋。
ふと、寂しさが襲う。
(何だか、寂しくなっちゃったな………。)
1人暮らしも、随分長い。
1人でいることにも、慣れている。
それでも、たまに寂しく思う。
この孤独を、虚しく感じる。
そんな思いを忘れる為に、私は冷蔵庫へと手を伸ばす。
開けた途端に、明るくなる庫内。
パッと付いたライトに照らされた、ビールの山。
シルバーのラベルがプリントされたビールの缶を手に、窓辺へ向かう。
窓を開けて、ベランダに出た。