社内恋愛のススメ
「あんな男、止めとけよ!」
「………っ!」
「だって、そうだろ。他に、女………作ってたんだろ?」
鼻息荒く、長友くんが厳しい言葉を投げ付ける。
長友くんは、上条さんと仲が悪いという訳ではないはず。
取り立てて仲が良かった様な記憶もないけれど、言い争いをしているのを見たことはない。
至って、普通の上司と部下。
特に仲良くもない、同僚の中の1人。
それが、長友くんと上条さん。
そんな長友くんが、上条さんのことをこんなに悪く言うなんて。
「あんな男って言わないでよ!上条さんは、そんな人じゃない!!」
ムキになって、反論する私。
さっきまでは、上条さんを疑っていたのに。
そんな私が、今は必死に上条さんのことを庇っている。
矛盾してる。
おかしいよね………。
疑ってるのに、信じたくて。
疑いを口にしてしまったら、自分が負けてしまいそうで。
だからこそ、必死になる。
必死に信じようとして、必死に上条さんのことを守ろうとしている。
「俺、アイツに聞いてきてやる。………有沢、待ってろよ。」
長友くんはそう言って、医務室を飛び出そうとする。
医務室を飛び出して、あの人の所へ向かおうとしている。
そんな長友くんを、私は弱々しく止めた。
「大丈夫だよ。ただの噂だから………。」
そう。
あれは、ただの噂。
本当かどうかも分からない、根拠のない噂だから。
そう言って、長友くんを宥めることしか出来なかったんだ。