社内恋愛のススメ
プシュッと、ビールの缶のプルタブを開ける。
一口だけ、口に含んだビール。
苦味が、口の中いっぱいに広がっていく。
「はぁ………、やっぱ最高!」
春とはいえ、まだまだ夜は寒い。
ひんやりとした夜風が、私の頬を撫でる。
眼下には、小さな夜景。
キラキラと輝く光。
その光が集えば、こんなにも素敵な景色になる。
その1つ1つが小さくても、集まれば宝石の様に輝いて見える。
1つ1つの光の下に、誰かがいて。
仕事を頑張っていたり。
大切な誰かと、同じ時間を過ごしていたり。
1つ1つの明かりの下に、人生がある。
名前も知らない誰かの人生がある。
そう思えば、胸が熱くなるのだ。
高層階に住めるほど、私は高給取りではない。
商社勤務のOLの給料なんて、たかが知れている。
だから、7階を選んだ。
このマンションから見える夜景は、小さなもの。
だけど、私は気に入っているんだ。
私だけの夜景。
私の為だけの景色。
この夜景が見たくて、毎日頑張っている様なものだ。
夜景をぼんやりと眺めながら、私は昼間の紗織の言葉を思い出していた。
「ねぇ、実和。結婚しないの?」
結婚か。
うん、まだその予定はない。
「私はね、実和に幸せになって欲しい。実和にはマイペースな所があるから、そんな実和を支えてくれる人がいたらいいなって………。」
私を支えてくれる人。
そんな人、現れるのかな?
結婚って、いまいち現実味がない。
結婚している自分の姿がちっとも想像出来ないから、困ったものだ。