社内恋愛のススメ
そう言って文香さんの名前を呼ぶ小倉社長は、文香さんの頭をフワッと撫でる。
自然に。
優しく、そのサラサラの髪に触れる。
困った娘を見つめる、小倉社長。
この人が、取引先の社長。
文香さんの父親。
そりゃ、あの部長が頭を下げる訳だ。
会社という組織の頂点に立つ人間。
ピラミッドの1番上にいる人。
部長なんかよりも、ずっと上の地位にいる人なのだから。
「勝手にいなくなったから、心配したんだぞ。ダメじゃないか………。」
「だって、仁さんが働いてる所を見てみたかったのよ。そんなの、なかなか見れないじゃない!」
プゥーッと頬を膨らませる、文香さん。
上条さんの前で見せた顔とは、また別の顔。
部長の前で見せた顔とも、また別の顔。
そこにいるのは、愛らしい社長の娘。
「文香、上条くんを困らせてはいけないよ。そんなことでは、これから先が思いやられる………。」
サラサラとした艶やかな黒髪を撫でながら、小倉社長が文香さんを諭す。
親は、誰でも自分の子供が可愛くて仕方ないもの。
それはこの人も、例外ではない。
目に入れても、痛くない。
誰よりも、自分の娘が可愛くて堪らない。
伝わるのは、そんな社長の思い。
父親の言葉に、肩を竦める文香さん。
「仁さんに渡したい物があるの!」
可愛らしくそう言った文香さんが、上条さんに小さな包みをそっと差し出した。
淡いピンク色の包みが、上条さんの手の中に移動する。
上条さんには似合わない、その包み。
文香さんから渡されたピンク色の包みを、上条さんは拒絶することなく受け取る。