彼女のすべてを知らないけれど

「え?」

然の家に? いつも一緒に行動しているとはいえ、自宅に招かれるのは初めてなので、俺は少し驚いた。

けれど、誘われて嫌な気はしない。

アパートに帰っても特にやることはないし、夕食用の米は、朝、家を出る前に炊いておいた。

それに、然の神社はアパートに向かう途中の脇道にあるらしいので、寄り道には最適とも言え る。

なにより、こうして友達の家に呼ばれるということが嬉しかった。

高校時代の友達は皆、就職や進学で遠方に行ってしまったので、今やメールやスマートフォン用交流アプリ上だけの付き合いになってしまっている。正直、けっこう寂しい。あんなに仲良くしていたのに、過ごす環境が違うというだけで、こんなに生の交流が無くなってしまうなんて。

そういうことも、俺が然への友情を強める理由のひとつになっているのかもしれない。


然に案内されるがまま、俺は彼の自宅に 行くことにした。
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