彼女のすべてを知らないけれど

「湊?」

しゃがみこむ俺につられ、然も足を止めると、隣にかがんだ。

「この子も、捨てられたのかな?」

エメラルドグリーンの瞳に、ゆらゆら光が揺れている。

「ウチで飼えるものなら飼ってあげたいけど、母さんが喘息(ぜんそく)持ちでさ。 たまに、野良猫が家の中入ってくるんだけど、それだけでもう呼吸が苦しくなるって。毛が、気管支に入ると良くないみたいで 。

本当に、捨てるヤツの気が知れないよな。

湊んちで飼うのは無理、か……」

「アパートだしな。ペット禁止」

猫への情を捨てるようにサラッと言い、俺は立ち上がる。

「そっか、湊、アパート暮らしだもんな」

然も立ち上がった。

俺達はそのまま、迷いを振り切るように然の家を目指した。


「ごめんな……」

振り返り、ロシアンブルーに対してそうつぶやく然の声が、俺の胸を強く揺さぶったのだった。
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