彼女のすべてを知らないけれど
畳のいい匂いが広がる、然の部屋。
同居しているという然の祖父が持ってきてくれたおやつやジュースを口にしながら、俺達は大学の話をした。
夏休み前に提出するレポートのことや、来週あるサークルの飲み会の件などなど。
学校にいる時と違うのは、ここが然の家だということ。話す場所が相手のテリトリーというだけで、俺は然に親しみを覚えていた。
気がつけば、日が落ち、夜になっていた。
どうでもいい話をしていただけなのに、や っぱり、楽しい時間が過ぎるのは早い。
然がカーテンを閉めたのと同時に、俺は立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「あ、湊、待って!」
あわただしい手つきで学習机の引き出しを開けると、然は中からあるものを取りだし、俺に渡してきた。
「特別に、プレゼント! 他のヤツには内緒なっ!」
「これは……?」
俺の手には、お守りというにはやや大きいが、確かにお守りの形をした物が手渡されていた。朱色の布。なのに、一般的なお守りによくある文字は刺繍(ししゅう)されていない。まったくの無地だ。