彼女のすべてを知らないけれど
「これは……?」
俺は、手に収まったお守りをまじまじと見る。
然は言った。
「それは、ただのお守りなんかじゃない、 特別な物なんだ。
普通の参拝客には売ってない。そうだなぁ 、バーで言うなら、常連にしか出さない裏メニュー的なもの、かな。
昔からの参拝客でも知る人は少ない、超貴重なお守りなんだ。年に一個、作るか作らないかっていう」
「マジか! そんなもんいらんっ!」
俺は、すぐさまお守りを突き返した。
「一人暮らし始めてから、やりくり頑張ってるつもりなんだけど、金足りなくなるんだよ。
こっちに引っ越してきてすぐ、貯金で電化製品とか買ってスッカラカンだし、 先週は飲み会が続いたから飯抜きの生活だったし、そんな身でこんなお守り買うのはかなり厳しいんだっ」
「たしかに、口に出せないくらい高値ではあるけど、特別にタダであげるしっ」
「いらないって! 後で『やっぱり払って 』とか言われても困るからっ」
一人暮らしを始めて以来、お金の大事さを痛感した俺は、お守りの受け取りを必死に拒否した。
しかし、然も然で、引かない。
「んなセコいことしないって! 最初に言っただろ、プレゼントだって!」
然の手により、結局お守りは俺の手中に収まることとなった。