彼女のすべてを知らないけれど
「それ渡すために、家に呼んだんだし」
「どうして、そんな大事な物を、俺なんかに?」
然に対し親しみは感じているが、そこまで長い付き合いにでもないのに、なぜ? 俺は疑問に思った。
然は両手を腰にやり、困ったように笑った 。
「クロムの話、聞いちゃったから、かな。
気の利いた励ましの言葉なんて、俺の頭には浮かばないし、そのくらいしか湊にしてあげられることないし」
「そんなの……。話聞いてくれただけで充分だって。ほんと」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、まぁ、いいじゃん。嘘だと思って、持っててよ 、それ。
分かるんだ。湊の気持ちも。
ウチの神社にも、時々、亡くなったペットのことを想ってお参りにくる人いるからさ……」
俺は、占いや呪(まじな)いといった類の話は信じていないし、こういったお守りすら、気休め品としか考えていなかった。けれど、そんな風に言われてしまっては、何も言い返せなくなってしまう。
せっかく然が好意でくれた物だ。返すのはかえって悪い気がした。