彼女のすべてを知らないけれど
「ありがとな。大事にする」
バッグの内ポケットにお守りをしまい、俺は尋ねた。
「これ、何のお守りなんだ? 何も書いてなかったけど……」
普通は、何らかの文字が刺繍してある。「 商売繁盛」「家内安全」「交通安全」とかって。
然のくれたお守りは、何に対してご利益(りやく)があるのだろうか?
「それは、持ってる人の願いを何でもひとつ叶えてくれる、魔法みたいなお守りなんだ」
「え……!?」
そんな話があるのか!? ないない! 心の中だけでツッコミつつ、然の話に耳を傾ける。
「この辺では有名な話なんだけど、ウチの神社は、ミコト神(しん)っていう神様の加護を受けてるんだ。
ミコト神は、命を司(つかさど)る神だと言い伝えられてる」
「みこと、しん?」
「ああ。このお守りを作る時、神主やってる俺の親父がミコト神を召喚して、お守りの中にミコト神の意思を注ぎ込むんだ。これは、企業秘密」
「そんなこと、本当に……?」
信じられなかった。然にとっては日常的な話なのかもしれないが、俺には異世界での出来事に思える。いや、ファンタジーアニメか何かの内容っぽい。それくらい、突飛な話だった。