彼女のすべてを知らないけれど


――さかのぼること一ヶ月前。

隣県の大学に入学した俺は、実家を出て大学近辺のアパートで一人暮らしを始めることにした。

大学へは実家から通えなくもなかったのだが、俺は逃げるように家を飛び出し一人暮らしをすることにしたのである。それというのも 、実家には思い出したくないことがあったからだ。


高校の卒業式を間近に控えた今年の3月の話。

俺をはじめ、家族全員で可愛がっていたメインクーンという種類の飼い猫・クロムが 、病気で亡くなったのだ。

猫の特性なのか、クロムだけがそうだったのか。クロムは、亡くなる直前、俺の家を出ていってしまい、二度と戻ってこなかった。自分の寿命が残りわずかであることを悟ったかのような家出だった。

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