彼女のすべてを知らないけれど
クロムがいなくなった後、父さんと母さんは別の猫を飼うと言い出したが、俺はそれに快く賛成できなかった。
まだ、クロムがいなくなって一ヶ月も経 ってないのに……!
元々、大学へは実家から通学するつもりだったが、クロムのことで割りきれない想いを抱いた俺は、きゅうきょ、一人暮らしをしたいと主張。母さんは少し文句を言っていたが、父さんは静かにそれを受け入れてくれた。
クロムは、ウチを出ていってから、どこか知らない場所に行き、一人で死んだのか……?
大学の入学式の帰り道、アパートに向かいながらそんなことばかり考えていた。
クロム……。叶うのなら、お前の寿命を 延ばしてやりたかった。俺の命を削ってでも……。
寝ても覚めても、クロムと過ごした日々のことが忘れられなかった。